-DIVERSITY & INCLUSION-対話しながらチューニングしていく、という考え方。

株式会社MUZIKA クリエイティブディレクター戸取瑞樹

メタバースからお寺のブランディングまで幅広いクリエイティブを担っている、株式会社MUZIKAのクリエイティブディレクターの戸取瑞樹と申します。弊社では、2014年から2020年までの7年間「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」(超福祉展)の、アートディレクションを努めていました。本展では、デザインという手法を通して、その思想をユーザーと共有するためのコミュニケーション制作をしてきました。その7年間のコミュニケーションを10分にまとめ、お伝えしていきたいと思います。

このダイアグラムは、超福祉展のコミュニケーション表現の遷移を表したものです。左から右へ2014年から2020年へと時間が流れ、各年の時代背景とともにその表現を変えていったことがわかります。

固定概念を味方に。

こちらは、プロジェクトのロゴマークです。着目すべきはカラー設定で、あえてこれまでの固定概念として「男→青、女→赤」という定義をし、その混色の紫をマイノリティとしたのです。ここで重要だと考えたのは、マジョリティマイノリティの話をする上では、まず、固定化されている概念の話から始める必要がある、ということでした。これまでの概念を壊すにせよ、再構築するにせよ「これまでの概念があった上でのこれから」として話をはじめたかったのです。

ストーリー=体験

「超」という漢字がモチーフですが、超えるという意味を「beyond」「super」「jump up」に分解し、同時に漢字に使われているエレメントも分解しました。「beyond」は、フラットなユニバーサルデザインよりも「+」アルファの領域に在るとし、「super」は、概念を超えるベクトル「↗」に託し、「jump up」は、「走」の下部のエレメントをジャンプ台として表現しました。そして、それらを再び「超」として組み上げました。これらの概念をストーリーに変換し、超福祉展で得られる体験として動画化しました。

【2014年】展示のエントランスはポスターから始まっている

こちらは、2014年の超福祉展のキービジュアルポスターです。かっこいいものがいっぱい並んでいて、面白そう。それがこの年のコミュニケーションの狙いでした。福祉だ何だの前に「ヤバい」「カワイイ」「かっこいい」からコミュニケーションをはじめたかったのです。細かい話はあとで、という感じでw。タイトル通りに、体験してもらうプロジェクトで、それが日常にある展なので、ファーストコミュニケーションであるキービジュアルポスターからその体験が始まっているべき、という考えでデザインされています。本来は、超福祉という概念を語る上では、ヒトやコトを提示していくべきなのですが、それを伝えるには、一切の説明なしにモノを見せたほうが早い、と考えたのです。

【2015年】モノから、ヒトの多様性へ

2014年のコミュニケーションモチーフは、モノでしたが、終えてみるとプログラム内にあったシンポジウムの重要性を強く感じました。そして、翌2015年のテーマを、モノからヒトへとシフトさせていきました。モノや仕組みを生み出す思想の源は、その人の経験や出会いから始まっていますし、その人の持つエネルギーが、思想や意識の発信、発展につながるのだ、というのがこの年のテーマとなりました。そして、そのヒトが多様なほど、思想やアイデアも多様に増幅していく、という考えです。目指したのは「一般人アベンジャーズ」ですw。人の存在そのものがタレントだし、その多様性にフォーカスしていくのが超福祉なのだと考えたのです。マジョリティ、マイノリティの”数”ではなく、思想やアイデアの多様性に注目していくべきだという考えで、それぞれの存在を同等としてビジュアル化していきました。

【2016年】【2017年】「もし渋谷が100人の街だったら」

全体男女比とマイノリティ分布(LGBT、未就学児を連れた親、高齢者、外国人、障害者、ベビーカーを押す親)を題材に、あえて“ちがい”を強調したボーダー状のダイアグラムとして構成しました。以降この考え方を超福祉のアイデンティティとして採用していくことになりました。単一のこと、静的な事象に対して、全体のこと、動的なことを理解していくと、初めて見えてくる世界があるのだと思います。止まっていることよりも、動いていることがよりリアリティがある場合があります。この分布は日々リアルタイムで流動し、計測時ごとに変わっていくアイデンティティというわけです。

また、この年からコピーが導入されました。2016年は、まずは日常の中でのこの期間に「ちがいを楽しむ一週間。」としたわけです。2017年は、これまで発信受信してきた超福祉の概念や視点をもって「ちがいを探しに、街へ出よう!」としたわけです。こうして、これまで会場ベースだった意識の醸成を、こんどは街へと広げていこう、という提案をしていったのです。

【2018年】解像度を上げるほど、境界は曖昧になる

この頃の時代背景としては、オリパラの影響もあり、マジョリティマイノリティの境界を超えて、誰もが積極的に表現のステージに立つようになりました。そして、継続してきたボーダーキービジュアルにも変化が現れます。これまであえてマジョリティマイノリティのボーダーの境界線を分けていたのですが、ここへきて、実はそこに明確な境界線が無いという認識が浸透してきたこともあります。つまり、本来個性には明確な名称や仕切りはなく、時に変化してくのが自然なのだという定義に変化してきたのだと思います。それにより、ボーダー同士の境界線は曖昧なブラー表現へと変わっていったのです。

【2019年】街へ、未来へ拡散して溶けてゆく

2014年当初に企画していた「日常化」に向けて、街に広がった超福祉は、世の中に溶け出し、更に拡散していくフェーズを迎えました。超福祉の概念は個人へと内包され、その個人は世の中へと拡散していきます。そして、当初、思想や概念だった超福祉は日常へと溶け込み、それが当たり前の世の中になっていくことをビジュアルとして表現しました。

【2020年】次世代から始まる超福祉

2020年は、以降の超福祉のあり方を示す必要がありました。超福祉の現場では、2018年頃から、それを発信する次世代が生まれ始め、2019年の運用も担うようになっていました。そして今後は、その次世代や世の中の超福祉世代が、また別の姿と形として超福祉思想を発信してくというストーリーを設計をしました。超福祉そのものは2020年で終わり、次世代が新たな言語を組み立て発信していくという世界です。こうして、2014年から7年にわたって続き、変化してきた超福祉は、2020年以降、世代の変化とともに姿を変え続いていくこととなったのです。

-DIVERSITY & INCLUSION-対話しながらチューニングしていく、という考え方。

超福祉展のキービジュアルポスターの変化を見ていくと、時代背景と対話しながら、その最適解をビジュアル化してきたように思います。時代背景とは、そこに生きる人々の考えや、テクノロジーや自然のあり方も含めて、これからどのような方向に向かっていくべきか、という「想い」のようなものだと考えています。そして、超福祉においては、そこから半歩先の世界をビジュアルとして提示していくのが使命だったのだと振り返ります。

この図は、左側のアイコンを自分と考えると、右側が対話とともに変化していくその対象物となります。そして同時に、右を自分と考えることも出来ます。その対象についての情報や、その対象の想いをできる限りこぼさずに拾い集め、その材料越しに見える半歩先の未来を描写していくのが、デザインなのだと思います。それはまさに、ダイバシティ&インクルージョンという考え方、そのものなのだと思います。